| - 自分に素直に- |
「最近、空が好きやねん」
いつもそんなことを言わない奴が、確かにおれにそう言った。
夕暮れ時のとあるビルの屋上。眼前には赤く燃え上がるような色をした空が広々と広がっている。
「うん? どうしたんや、急に」
おれは驚きを隠せずに言った。
奴がそんなことを言うのはおかしかった。
ロマンティックな奴じゃないはずだ。普段はブランド物を身にまとい、クールに煙草をふかす、そんな感じの男。
田舎よりも都会、家にある写真のアルバムには、緑木と共に映っている写真は一枚もなく、クラブで友達と酒を飲みながら騒いでいる写真ばかり。
今日も好きでもない女と寝てから、おれと今こうしている。
そんな奴がくさいセリフを吐いたから、おれは驚き、またおかしかった。
「なんてことはないねんけどな。最近、空よう見るねん。ええなって」
奴は遠い目をして、赤く燃え上がっている空を見つめていた。
確かに言っている通り、気持ち良さそうな表情をしている。
「おい」
おれはその横顔に低い口調で言った。
「うん?」
「おれで練習すんなよ」
「? 何のことや?」
奴は意味不明といった表情で、クッと目をつり上げた。
「とぼけんなよ、女に言うんやろ」
おれが笑顔でそう言うと、奴は言った。
「あほか、お前は」
しばらく2人とも黙ったままだった。
風はまったく吹いていない。静かに過ぎ行く時間の中で、夕焼けは夜へと変貌していこうとする。
「最近、何かええことあったんか?」
おれが言った。奴を見ていて、素直にそう感じていた。
「ええことかぁ・・・・。いや、特にない。相変わらず何していいかわからんし、くすぶってる」
おれの方を見ずに、奴は言った。
「そっか」
おれはそれだけを言って煙草に火をつけた。
ゆっくりと暮れ始めた空を無言で見ながら、おれは思っていた。
こいつもおれも、これからすごい奴になるのか、イモで終わるのか、それはまったくわからへんけど、今のこいつのように自然を感じれる人間であり続けたいな、と。
朝焼けや夕焼け、そよ風、虫の鳴き声、春夏秋冬、そんなものをいいと感じることができる人間であり続けたいな、と。
夢なんて持ってなくていい。くすぶっていてもいい。あほでもいい。
何をやっていても自然をいいなと感じることができる心を持っているということは、自分に素直に生きている証拠だと思うから。
いつの間にか夜の暗闇に覆われていた。
輝く星が美しかった。
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| マル 2004.9.22 |
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| - Time is money- |
借金はあかん。
なんであかんのか、おれは身をもって知った。
だいぶ前の話になるが、おれは軽い気持ちでよくある消費者金融へ足を運んだ。
手続きは簡単。ちょちょいのちょいで、機械のハコから好きなだけ金が出てくる。
「バイト代入ったら後で返したらええだけやんけ。
それより、うふふ・・・・。
今日のデート、話が弾んでラブホ行くかもわからんからな。ハハハハ!!」
今月の給料日はまだまだ先。財布の中を厚くしておきたかった。
その辺の誰かが言うセリフなんて知ったこっちゃなかった。
「借金はあかんで」
それしか言わへん。そんなもんに耳を貸している程、おれの心は固まっていない。もっと自由なんや。
何かやることについて「あかん」と頭ごなしにそれだけを言われても、何であかんのか、自分にはしっくりけえへんから理解できん。
おれなら、そんなん言われたら逆にやってやろうと思ってしまう。
でも、もしこの時、今のおれみたいなことを言ってくれる奴がいたら、もしかしたらおれは借金せえへんかったかもな、そしてずっと自由でいられたやろうな、なんて思い、今ここに書く。
借金はあかん。
なんであかんのか?
おれが思うに、それは自由でいられなくなるからや。
自由でいられなくなることほどつらいことはない。
金を借りるということは、後で返すということ。
それはつまり 、未来の自分の働く時間を一瞬にして手にするということ。
例えば、10万借りた。じゃあ、後で返さなあかん。その10万を稼ぐのには、時給1000円で100時間働かなあかん。
10万借金した瞬間、未来の自分の100時間を買ったことになる。
まぁ、おれの場合はその倍の金額やったけどな。
おれはそんなことに気付かなかった。
ただのアホなんやろか・・・・。
借金を返すのは苦しかった。
未来の自分の輝かしいはずの時間を、おれは金に変えてしまった。
過去の為に、今の時間を削る。
借金を抱えている間、おれはそのことに無性に情けなさを感じたし、また今のやりたいことができない不自由さが苦しかった。
誰かは言うかもしれない。
「それでも今は今でやりたいことやったらええやん」
もし、君がそう思うなら少しヤバい。借金は一向になくならないだろう。
「今、これやりたい! これ欲しい!」
借金を返す為に、今を我慢しなければならない。
「今、これやりたい! これ欲しい!」
金を使うと、借金はなくならない。
借金して未来の時間を買ったということは現実である。
現実からは逃げられない。
今、思えば、もっと自分の未来に対して自信を持っていれれば良かったな、と思う。
「今が大事」
確かにそうだ。今はめちゃくちゃ大事である。
でも、未来の自分の今もめちゃくちゃ大事なのである。
未来に自分の人生を大きく揺るがすターニングポイントが来るかもしれない。
自分の未来にそう思えなかったのを悔やむ。
Time is money.
時は金なり。
その値段は価値のつけられない代物である。
借金は時間を買うのだということを忘れずに。
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| マル 2004.9.29 |
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| - 瞬発力- |
友達と深夜の公園で男二人しゃべっていた。
キーコーキーコー、ブランコに乗りながら缶コーヒーを片手に持って、時折煙草をふかしながら。
ちょっと寒いな。もう10月も半ばにさしかかっている。昼間はまだまだ暑さが残るけど、夜になると急に肌寒い。
友達の話を話半分聞きながら、「もうそろそろ秋服買いに行かなあかんな。そうや、今年はミッキーマウスのトレーナーでも買うか」そんなことも考えていた。
いろんな話をした。真剣な話もあった。そんな中で、何の話だったか、おそらく自分たちの将来についての話をしていたんだと思う。
その時に、友達が痛感してるんだ、とでも言わんばかりの真剣な表情で言った。
「行動力は大切やな」
よく人は行動力が大事だと言う。
おれも昔はそう思っていた。自分の経験を振り返っても、周りの人間を見ていても、確かに何かをやる時行動力がないと何も始まらない。
恋人が欲しいなら、素敵な女性と付き合えるように行動する。
待っているだけで女が寄ってくるのは、人よりズバ抜けて男前か、しゃべりが上手いか、ベットの上でテクニシャンな奴だけだ。
ちょっとつらいのは、行動したからといって素敵な女性と出会えるかどうかはわからないのだが、少なくともナンパするとか、友達に紹介してもらうとか、考えればいろんな方法がある。
金がない時も行動力がいる。アルバイト雑誌を買って、実際に受かるかどうかもわからないウザイ面接に行かなければならない。
そう、確かに行動力は大切だ。大切だというか行動力がないと何も始まらない。いろんな事柄に対してあればあるほどいいと思う。
でも、おれにはその行動力という言葉がどうしてもピンと来なかった。
なんちゅうんやろ? 行動力と聞くとなんかしんどそうなイメージを抱いた。
走って走って、走り続けて・・・・、みたいな。言えばマラソンを走るような感じ。
素直に「めんどくさいなぁ、嫌やなぁ」っておれは感じていた。
そして、今。
友達が「行動力は大切やな」と言ったセリフに対し、おれはこう返していた。
「おれが言うなら、大切なのは瞬発力やな」
おれの頭の中でイメージしたのは100m走のスタート直前のシーンだった。
バン! と一瞬にして飛び出す、あの感じ。
そう思ったのは、言い方の違いだけだが、イメージするのに『動く』というよりも『飛び出す』という方が自分の中でしっくりきたから。
恋人が欲しいなら、素敵な恋人と付き合えるように一瞬にして飛び出し探し出す。
金がないのなら、一瞬にして飛び出しバイトを探す。
その場を飛び出してその瞬間にやってしまう。今、すぐに。
自分の経験上、「行動力は大切やな」と思えば、動こう動こうという意識ばかりが先行して結局やらないで終わることも多い。
今、すぐにやってしまう、という観点から、おれは瞬発力が大事だと言いたい。
イメージするのは100m走のスタートの瞬間、飛び出し。
「行動力、行動力」と頭の中で言い聞かせるより、「瞬発力、瞬発力」と言い聞かせる方が、はるかに君は行動する人になっているだろう。
少なくともおれはそうだ。
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| マル 2004.10.7 |
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| - 何かをやり始めるということ- |
2003年の春だった。
憧れにすぎなかったボクシングを自分がやることになったのは。
おれは一体何故ボクシングをやり始めるようになったのだろう・・・・。
小さい頃からボクシングには憧れがあった。当時は、元WBC世界バンタム級王者辰吉丈一郎選手や元WBA世界ジュニアバンタム級王者鬼塚勝也選手がボクシング界の中心的存在だった。
世界戦がテレビに映ると食い入るように見入った。
試合前のマイクパフォーマンスやインタビュー、練習風景の海の砂浜や山の上り坂を裸で走っている姿が映る。そんな姿を見ていて、試合前からすでに熱くなっていた。
ボクサーのひたむきなストイックな姿を見ながら、自分も熱くなりたかった。テレビの前でいつもやらない腕立て伏せや腹筋を張り切って必死にやっていたのを覚えている。
ボクシングを、ボクサーを純粋にかっこいいな、と思った。しびれていた。
ボクシングを見ていると、身体中が熱くなって、とにかくどこでもいいから走り出したいような気持ちになっていたのを今でも覚えている。
ガキなりに、人間の本能の部分を感じていたのだろう。
自分をせいいっぱい使って、完全燃焼して弾けたい、と。
今思えば、世界戦の次の日の新聞記事を切り抜いてノートに張ったり、下敷きに挟んでいたぐらいだから、相当好きだったんだなって思う。
けど、おれはボクシングをやらなかった。家の近くにボクシングジムがなかったからとか、親が反対したからとか、時間がないからとか、金がないからとか、そんなしょうもないイモな言い訳はしない。
「自分にはできない」
そう思っていた。
要するにビビっていた。ただそれだけだったのだろう。
高校生になり、友達と一緒に深夜徘徊して悪さをすることに楽しさを感じ、彼女とSEXすることに快楽を感じ、とうつつを抜かしていたが、
ボクシングの世界戦がテレビなどで放映されればやっぱり見ていた。
18、19、20歳・・・・、
大人になっていっても変らずボクシングにシビレ、興奮していた。
それでもまだ、「自分がボクシングをやる」という風には考えられなかった。これまで自分の興味のあることはとにかくなんでもやってきたのに。
ビビっていた。
世界中を一人で旅することはできても、本を書くことはできても、 まだ自分がボクシングをやり始めれるレベルにまで達していなかった。
好きな俳優は、赤井英和。
好きな映画は、北野武監督がボクサーとヤクザの2人の若者を描いた青春ムービー「キッズリターン」
好きな漫画は、22歳になって初めて読んだ「あしたのジョー」
おれはボクシングを好きなことだけはわかっていた。
そして、2003年の春。
おれは24歳になって初めてボクシングジムの門を叩いた。いや、叩くことができるようになった、そう言った方が正しいだろう。
10年以上も思い続けていた夢。
自分がボクシングをやるなんて思いもしなかった。
ボクシングをやり始めた時、みんなが聞いて来た。
「何でボクシングやり始めたん?」
理由はあるようでなく、またないようである。
憧れていたから、好きだったから、そんな理由も嘘じゃない。
でも、本当に純粋に自分が思うのは、
「自分がボクシングをやり始めるレベルにまで人間的に成長したからだと思う」
そう言うのはこれまでの人との出会い、経験、涙したこと、笑ったこと、そんないろいろなことが影響して、おれはボクシングをやり始めれるようになったと思っているから。
人間的に、精神的に、肉体的に成長して。
何かをやり始めるということは、好きなだけじゃできない、行動力があるからだけじゃできないと思う。
自分を、それをやり始めれるレベルにまで成長させる必要があるのだと思う。
夢も、恋愛も、友達付き合いも、同じことが言えるんじゃないだろうか。
そして、その先にあるものとして、より成長すれば夢を叶えたり、結果を残すということができるようになるのではないだろうか。
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| マル 2004.10.15 |
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| - 台風23号とトトロの関係- |
20日にやってきた台風23号。
奴はその日の夕方7時頃に近畿地方を直撃した。
その時、おれは何をしていたかというと、ぶらぶら、ゆらゆらと外をほっつき歩いていた。
パジャマ姿で、髪の毛ボサボサで。
それまで家で書いとってん。
あそこかいてたんちゃうで。
まぁ確かに、自分で自分を慰めようとも思ったけど、最近そこまで元気ないねん。もう26歳。一人であそこいじって感じてる場合でもないやろ。
家を出ると、雨すごいやん。風もすご過ぎて、雨が縦というより、横に降っとるがな。
「けどまぁ、行こう、外」
もうこれ以上パソコンの前に座っているのが嫌やった。「あんなこといいな、こんなこといいな」って一人であれこれ考えてドラえもん出て来るんやったらええけど、そんなことあるわけなく、普通に何時間もキーボード叩いてたら頭おかしくなってくる。
パジャマで出たから、速攻でビショビショになり、ださいストライプのパンツがスケスケになった。
けど、全然ヤバない。若い女の子いてへんからわいせつ罪で訴えられることもないやろ。
おっさん、おばちゃんすら、誰もおらへんかった。
通り過ぎる滝のように流れている暴れん坊の川を横目に、おれは木々が何本か集まっているところで立ち止まった。何本かって10本くらい。森でもない、林みたいな感じ。
こちらもだいぶ暴れ回ってはった。
おれはその元気な林?を見ていて、一人でにこんなことをつぶやいていた。
「トトロ、トトロ、わーいわーい!
トトロ、早く出て来ーい!!」
クレイジーなほどの雨と風で、おれのテンションも暴走気味だった。
暴風、そして林とくればトトロしかない。
おれはその場で傘さしながらトトロを待ちこがれた。
「おっ!傘さしてるとこもサキちゃんみたいやん、おれ。
もしかしたら、ほんまに トトロ出て来るかも」
身体はおっさんになってきても、やはり心は神童でいたい。
「しゃーないから、おっさんのぬいぐるみ着といたるわ」そんな感じで思ってる。
けど、そんなん当たり前にトトロが出て来るわけあらへんがな。
出て来たら、おれ、テレビ出れるやん。
「トトロの出せる男」として。
しばらく5分、10分待ったが、やはりトトロは出てこなかった。おれは、「トトロ出て来たら、この豪雨の中でも地面に寝っ転がって高ーい高ーいやって、じゃれ合いたかったのに・・・・」なんて捨てきれぬ夢を思いながら、その場を去ろうとした。
その時や!
目の前にトトロおってん!!
「わー、トトロ!!」
おれ、びっくりしたで。あのどでーんとデカイ図体した、あのぷよぷよした触りたくなる腹を持ったトトロが目の前におった。
「えっ? 何で?
これって、すごくない??」
こんなこと言うてたら、「情熱の円 maru」嘘をつく男として有名になってしまいそうだが、嘘じゃないからこれ恐い。
そのトトロ、イメージしてたのよりだいぶ小さかったけどな。
そのトトロ、腹ぷよぷよしてへんかったけどな。
そのトトロ、平べったかったけどな。
テレホンカード。
トトロのテレホンカードが道路に落ちていた。
それでも十分すごいことじゃない!?
本物じゃなかったけど、本気でトトロを待ちこがれていたおれにはめちゃめちゃうれしいことやった。
「トトロ・・・・」
横にサキちゃんもいた。
「トトロ、会いたかったで・・・・。サキちゃんまで来てくれるなんて・・・・」
おれはうれしさを隠しきれず、その後もう30分、次は「ネコバス」を待った。
ヘーックシュン!!
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| マル 2004.10.21 |
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