目の前で、夜空にきれいな真っ赤な風船が飛んでいる。
ふわふわ、と。
時には風に流され、上に下に。
どんなに悪い奴でも見える風船。
性格が良くなくても見える風船。
おれみたいな最低な奴でも見える風船。
その風船の中には、小さな小さなテレビがある。
その少女の生まれた時のシーン。
自転車に初めて乗れた時の喜びの笑顔。
高校生、制服姿で彼氏と歩いている春の日。
おれも映っている。
寝ているおれ。
一緒にメシを食っているおれ。
そして、
泣いている一人の女の子。
風船が流れて来て、この世界をめぐり、
もう一度おれのところに戻って来た。
誰かが意図的にこの風船を運んで来たのかもしれない。
偶然にめぐってきたのかもしれない。
でも、そんなことはどうでもいい。
今、真っ赤な風船はおれの目の前にある。
そして、どこにもいかず、
おれの目の前でたたづんでいる。
何かを訴えるように、おれの目の前でたたづんでいる。
窓は開いていた。
そこから夜空に真っ赤な風船が見えていた。
その風船は手に届くところにあった。
もう一度手にすることはできただろう。
でも、おれは窓を閉めた。
すぐに風船の中のテレビは消え、
夜空の彼方に飛んでいった。
世界のどこかに飛んでいき、
あの真っ赤な風船はどこかで誰かと出会うだろう。
おれは手にすることはできないが、
誰かが全てのものを捨ててでも、あの風船を手にするだろう。
