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ピピピ、ピピピ・・・・。
携帯の充電が切れる合図音が聞こえた。
一分以上電話で話をしたことがない二人が、この日初めて様々なお互いの胸の内を長い時間語っていた。
ガタガタガタガタ・・・・、
永川の耳には強く吹く冬の木枯らしが部屋の窓を叩き付けている音が入ってきていた。
ベースは部屋の床に転がったまま。部屋にいる時は、寝ているか、ベースを触っているかどちらかの人間が、ここ何日、まったくベースに触れることさえもなかった。
部屋の中にいると落ち込みやすい永川は、毎日のように、何をするともなく時折雪が降る外をほっつき歩いていた。
歩いている永川の頭の中では悲しいメロディーがずっと鳴り響いている。ハッピーな時はリズミカルなメロディーが鳴り響き、へこんでいる時は悲しいメロディーが鳴り響く。感情がそのまま頭の中でメロディーとなるほど、永川は毎日音楽づけで、音楽のことばかり考えている。
確かに、冬の町景色はどこかせつない・・・・。
でも、今永川の頭の中に悲しいメロディーを奏でているのは、間違いなく親友の死以外何ものでもなかった。
川の流れにポツリポツリと落ちていく雪。
降っているか降っていないのかわからないくらいの降雪量なのに、いつの間にか木々の葉に積もっている雪景色。
アスファルトに少ししか溜まっていない雪を必死に集めて遊んでいる近所の少年たちの姿。
永川はそんな町の中を歩きながら、加藤の笑顔を思い出し泣き、また加藤の笑顔を思い出し、なつかしく微笑んでいた。
昨日、菊地から電話があった。
「おれ、前に萩原が言ってたアメリカへ行く話、行こうと思ってる。萩原はわかっていたんだろう。日本の外へ出るしか、みんなでいる方法はないんじゃないかって。おれはそんな風に思うよ。おそらく加藤も・・・・。
今は、みんなでいたい。おれが思ってるのはそれだけだ」
その話を聞いて、永川はまず「もう遅いじゃないか・・・・」と思った。
「加藤が、いないよ・・・・」
永川は言った。
「そうだ、加藤はいない・・・・。あの時、萩原が言った時、YESと言っていたら、5人で一緒に行けたのは間違いない。でも、おれたちは言えなかった。
その結果、こんな悲しい結末になってしまった。
だからといって、4人になったからといって、おれたちはもうバラバラになるのか? おれは嫌だ、みんなと一緒にいたい。
そして、それは加藤からのメッセージだとも思ってる。
夢なんかなくてもいい、友達がいなきゃ生きて行けない。愛する人と一緒にいることが全てだ、と」
菊地は一気に言った。
「友達の大切さ。加藤の残してくれたメモを見て、そのことに改めて気付かされ、葬式以来、ずっとそのことを考えていた。
お前が言うのは、そんな加藤の残してくれた思いを貫きたいということか・・・・」
「あぁ」
永川は菊地の思いをわかっている。
「でも、何故あの時、萩原が言った時におれたちはYESと決断出来なかったんだろうな・・・・。あの時、『よし、行こう!』それだけで加藤は救われていた・・・・」
永川はつまりながら言った。
「それはみんな考えてる。そして、おれたちがずっと背負っていくことだと思う。良も、おれも、同じことを考えていた。それが何より後悔することで、ツライ・・・・」
「あぁ、ツライ・・・・。本当にツライよ・・・・」
受話器の向こう側で、永川は泣いているようだった。
「良が言ってたよ。頭ではわかっていても、心はそう思い切れなかったって。
胸に響いた。みんなわかってる。親友や恋人、親、愛する人が何より大切なんだって。でも、現実はそう簡単じゃないんだって思い知らされた。
大人になればなるほどそうしにくくなっていった。仕事や守るもの、将来の長い先なんかを考えたりすることが出て来たりしてな・・・・」
菊地のセリフは永川の耳から心へ届いた。まるで自分の心の中を覗いたかのような言葉だった。
「そうだ、そうなんだ。おれもそんなことを思っていたんだ・・・・」という風に。
窓から外を見ると、暗闇の中で白い雪がゆっくりと振り落ちている。
そんなシーンを見ながら、永川は言った。
「加藤も連れて、5人、みんなでアメリカ行こう」
何故だろう?
そう言った途端、ずっと心を占拠していたはずのどす黒い曇り空から光が差し込んだ気持ちになった。
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