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暗闇の中で薄らと光るカッターナイフに血が滲んでいる。
そのカッターナイフを右手に握りしめている萩原。左手首は傷だらけだった。
握りしめたカッターナイフが小刻みに震え出す。そして、萩原は「あぁー!!!!」と叫びながら、その持っていたカッターナイフを部屋の壁に投げつけた。
もう5回目・・・・。
加藤のことを考えれば考えるほど、死にたくなった。だが、何度やろうとしても、できなかった。
「ごめん、加藤・・・・。ごめんな・・・・」
萩原の鳴き声が、冬の寒い部屋の中で響いた。
「みんなでずっと一緒にいたい」
萩原が高校を卒業した後ずっと考えていた温かい気持ちは、加藤が死んだ後、まったく別のものになってしまっていた。
凍り付くような冷たさ。
一日過ぎ去るごとに、どんどん寒くなっていく。まるで今の季節のように・・・・。
今の萩原にとってみんなで一緒にいるということは、死を意味していた。
加藤の葬式を終えた次の日、萩原は机に向かって自分の遺書を書いた。
「おれは加藤と一緒にいたい。みんなも来てくれ」
菊地たち3人に当てたメッセージだった。
みんなで加藤の後を追う。だからといって、実際にみんなに会って「みんなで死のう」そんなセリフは吐けなかった。
今の完全に憔悴しきった萩原は、普段の萩原ではなかった。死というものに捕われ過ぎていた。
しかしながら、加藤の死によって、「じゃあ、おれはいつ死ぬべきなのか?」そんなことを考えた時、萩原は今だ、と思ったのは冷静な思いだったかもしれない。
昔、見た夢。
外国のビーチでみんなで語り合い、その後、全員で花火を打ち上げて、砂浜に寝っ転がりながら花火を見る。もし、そんな瞬間が来たら、自分は死んでもいい、そう思ったことがあった。
それはそんな瞬間が来たら死ぬほどうれしいだろうな、本当に死んでもいいかもな、といううれしさから来るものだった。
それぐらいに、萩原は仲間との時間を貴重に感じていた。
だが、今、5人でもう一緒にいることができなくなった今、彼の全ては崩壊していた。自分にとっての大切なものとして唯一としてあった、仲間との時間はもうやってこないのだから・・・・。
死にたいけど、死ねない。
そんな状況の萩原に、菊地は電話ではなく家まで尋ねて来た。
もちろん、菊地は今のそんな状態の萩原を知らない。
二人は萩原の家の近くの公園にいた。
真っ白な雪景色。日に日に寒さは厳しさを増し、積雪量も増えている。
菊地はブランコが視界に入ると、なつかしさを感じた。
砂場、ジャングルジム、シーソー、滑り台・・・・、順に視界に入って来る。
何故だろうか、胸が苦しくなった。
「萩原・・・・」
菊地はそう言った後、下に俯いて何もしゃべらなかった。萩原はさっきから一度も菊地の顔を見ていない。ただ、見ているような見ていないような、そんな表情で呆然と前だけを向いていた。
「萩原・・・・、何を考えてる?」
一分、いや、5分が経っていたかもしれなかった。菊地が萩原の方を向いて言った。
「何って、何?」
萩原はこの時初めて菊地を見て、言った。
くぼんだ目、生気を失った目、菊地は萩原の目にそんなことを感じた。
「おれはお前と同じことを思っていた。けど、ずっとそれが言えなかった。
友達、それが自分の全て。身近にいた人間が死に、バンドという夢がなくなり、そんな中でおれはそんな思いになっていた」
菊地が静かに言った。
「だから? だからってどうだっていうんだよ」
萩原の目はあまりにも冷たかった。
菊地は構わず話を続けた。
「あの時、お前が『みんなでアメリカへ行こう』そう言った時、おれの答えはNOだったが、あの後帰り道で、おれはお前の内面に初めて気付いたよ」
菊地は皮のジャンパーから煙草を取り出しながら言い、口にくわえた。
「あぁ、あの話かぁ・・・・。もうどうでもいいよ」
萩原が別人のように感じた。
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