「おい、具合でも悪いのか? 今日、全然しゃべらねえじゃん、お前」
入学式の帰り、電車の中で菊地は永川に言った。
永川のいつもと違う表情に菊地は異変を感じていた。
「そう?
ねえよ、何もねえよ。寝暗だからな、おれは」
永川は作り笑顔をし、言った。
だが、その表情に元気はない。
「おい、茶化すな。本気で心配してるんだ。何かあったのか?」
菊地は永川の目を見て言った。
『 次は川端駅〜。川端駅〜』
車掌のアナウンスが鳴り響く。
間があった。
永川は俯き加減で自分の足下を見ながら、神妙な表情で言った。
「何もねえって・・・・」
菊地はそう言う永川の顔をじっと見ていた。そして、しばらくして言った。
「わかった・・・・。
でもな、何かあるんだったら言えよ」
菊地は永川から目を離し、静かにそう言った。
夕暮れに向かって電車はゆっくりと走っていた。
学校のある都会から霞町まで電車でほぼ一時間。
ぼぉーっと何もしゃべらないまま車窓から外だけを見つめる2人。
車両に人は少なかった。座れる空席も多々あったが二人は座らずに立っていた。
静かな時間が少し流れた。
「菊地」
その静けさを破ったのは永川だった。
「何?」
菊地は永川を見ず、車窓から外を見つめたまま答えた。
川の堤防近くで3、4人のガキがはしゃいでいる姿が菊地の目に映っていた。
「・・・・・」
「何?」
何も答えない永川に、菊地は永川の方を振り返ってさっきよりも少しだけ大きな声で言った。
「・・・・いや、何もねぇ・・・・」
永川は菊地と目が合わないよう、車内の方をくるっと向き、小さくそう言った。
菊地はそれ以上何も言わなかった。ただただ車窓から見えた赤くでかい夕日を無表情で眺めていた。
『次は霞〜、霞〜』
どのくらいの時間が経ったのだろう・・・・、車掌のアナウンスが、2人の家の最寄り駅である霞駅への到着を告げていた。
席を立ち始める何人かの乗客たち。
全ての物音が何も聞こえていないのか、菊地はずっと車窓から外を見つめていた。
その菊地の横顔を、永川はじっと見つめた。
「・・・・ごめん」
永川の口から自然にそう声が漏れていた。
菊地にそのかすれるような永川の声が聞こえたのか聞こえなかったのかはわからない。
ただ菊地はずっと外を見つめ黙ったままだった。
2ヶ月後、菊地は学校を辞めた。
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