菊地は入学して2ヶ月で音楽の専門学校を辞めた。
永川には辞める前日の晩、電話で「おれ、辞めるわ」とだけ伝えられた。
入学式の次の日から、永川は新しい人生に向かって走り出した。
菊地にはハッキリと言えなかったが、あの感じからすると菊地は自分の言いたかったことが何であるのか、もうすでにわかっていると思った。面と向かって言わなければならないと心では思っていたが、言えない自分に都合のいい言い訳をするように、永川はそう思い切った。
永川に新しい仲間はすぐにできた。自分の好きな音楽、スカ、メロコアといった音楽ジャンルは時代に合い、時代の流れに沿うようにその音楽を追い求めている奴も多かった。
入学して一ヶ月もしないままに、新しいバンドも見つかった。
一方、菊地には合わなかった。専門学校の授業にも、そして、同級生たちにも・・・・。
菊地が専門学校で一人でいる姿を永川は何度も見かけた。
学校での菊地はいつもかなしい表情で、さみしい背中だった。
永川はそんな菊地のもとに駆け寄りたかったが、できなかった。
新しいバンドのメンバーの中に、菊地の存在をウザイと感じている奴がいたからだ。
小学校や中学校、元をたどれば永川も煙たがられていた側の人間だったから、菊地の気持ちは痛いほどわかる。だけど、今の自分にはもう新しいバンド仲間が出来ていた。
新しい仲間たちともっと仲良くなりたい、でも今の菊地は誰かとしゃべりたいに違いない。
そんな二つの気持ちの中で揺れ動いていた。
でも、実際に永川が取ったのは、新しい仲間との時間だった。
夢、夢を追いかけたかった。
新しいバンドで成り上がりたかった。
2か月経って菊地が学校を辞める頃、永川と菊地は一緒に帰ることもなくなっていた。
永川は菊地に対してずっと悪いと感じていた。菊地はどう思っていたのかはわからない。
しかし、幸にも不幸にも、時の流れは心を癒してくれる。
永川は純粋に夢を追い求めた。もちろん友達として菊地のことは案じていたが、それとこれとは別問題だった。
「おれはバンドで成り上がってやる!」
その思いだけが心を占領するようになっていた。
結果的に、永川は充実した専門学校での2年の日々を送り、その新しく組んだバンドと解散することなく卒業した。
20歳。永川はそのバンドで、レコード会社との契約という夢に向かって走り出していた。
|