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scene くすぶる日々
第12話「背中にはいつも悲しい夕暮れがあった」 |
友達がいない日々は何よりツライ。
大学から家に帰った後、ほぼ毎日のように加藤は近所のパン屋へとバイトに向かった。
大学で食べる昼食代以外、ほとんど金なんていらない。友達と飲みに行くこともなければ、服を買いに行くこともなかった。
それでも加藤がパン屋へ向っていたのは、多くの者がしたくないと思いながらも貴重な時間を割いてやっているアルバイトの理由じゃなかった。
金じゃない。
加藤にしてみれば、アルバイトは不必要なほどに感じるありあまる時間の埋め合わせに過ぎなかった。
時間があればあるほど、加藤の心は変な方向へと向かおうとしていた。
バイトで溜まっていく金は、パチスロと風俗へと消えていた。
スロットは正直好きではなかった。ギャンブル自体あまり好きではない。でも、アルバイトをしている理由同様、ただただ時間を埋めたかった。そして、しゃべる必要もなく、気を使う必要もない、自分とまったく関わりのない人々が入れ替わり立ち代わりし、活気が溢れている空間は加藤にとってどこか心地よかった。
煙草の煙が充満していて、コインの音がジャラジャラと騒がしく鳴っている。
普通は嫌がるはずの場所が、加藤の居場所だった。
週末、大学の授業もなくバイトもない日はほとんど行っていた。
友達と遊びたい。友達が欲しい。
加藤は心底、そう願っていたが、同時に正反対に、人としゃべることを避けていた。
人としゃべりたいが、人としゃべることが恐かった。
加藤は人の温もりだけを求めていたのかもしれない。
風俗はスポーツ新聞の広告を見ていて行きたくなった。
最初はもちろん性のはけ口として行ったが、一回行った後はまったく違う感情を持って行っている。
それは恋だった。
風俗嬢との恋愛。
あるようでないが、またないようである、一つの恋愛の形。
加藤が初めて風俗に行った時、相手をしてくれたみきちゃんの肌の温かさに、加藤は一発で恋に落ちてしまった。
みきちゃんは小柄で物静かな女の子だった。ほとんど自分からは話さなかった。
風俗嬢は性を売る仕事である。少なくとも仕事であるならば、お客さんに対して自分からしゃべりかけるのがセオリーである。
でも、そうではないみきちゃんに加藤は影を感じ取った。
そして、そのみきちゃんの中に潜んでいる影に自分との近さを感じた。
その影は人間の匂いと言ってもいいかもしれない。
菊地にも、良にも、永川には、萩原にも、その人間の匂いは感じていたことだった。
肉眼では見えないが、対面しているとどこかに感じる心の黒い影。
寂しさや人生に対するはかなさに対して、いつも地面に唾を吐いて、「満足いってねぇ」といった感情がどこか見え隠れするようだった。
その気持ちを一言で言えば、くすぶり感と言えるのかもしれない。
加藤はみきちゃんにいろいろなことをしゃべることができた。
話に夢中になり、風俗店に来ている、という本来の目的を果たさないまま時間を迎えることも3回に1回あった。
もちろん、彼女は商売で話を聞いているだけだろうが、彼女の口から時折出て来る言葉に、加藤は温かさを感じていた。
加藤にとって、友達、恋人がいなかった加藤にとってみれば、彼女は友達と恋人の両方として存在してくれていた、天使だったに違いない。
でも、もちろんそれで満足いっているわけではなかった。
現実、みきちゃんは天使であっても、誰に対しても天使である風俗嬢には違いないことは、加藤もわかっていた。
いつも夕暮れ。
加藤の背中にはいつも悲しい夕暮れがあった。
学校帰りの孤独感を感じる時、みきちゃんと別れまた孤独感を感じる時。
大学へ入学してからそんな生活が2年。
加藤は学校からの帰り道で、なかなか会う機会がなかった4人の名前を心の中でつぶやくことが、日に日に多くなっていった。
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