「いい旅だったんだな」
助手席から菊地の静かな声が聞こえてきた。
菊地はフロントガラスから前を向いたまま言った。
萩原はその菊地の声を聞いただけでなんだかやさしく包まれたような気にさえなった。
なぜ、いつも菊地の一言にこんなに優しさを感じるのか?
そんな思いを持ちながら、萩原は菊地に言った。
「あぁ」
少し間があった。
菊地はポケットからセブンスターを取り出し、火をつけた。
「ちゃんと生きるってことと違うけど、人はなぜ生きているのかっていうすごくディープなこと、おれも少し前まで延々と考えていたよ」
みんなの視線が一斉に菊地の方に集まった。
「どうしたんだ、菊地」
加藤が言った。
みんな同じことを思っていた。
そんなことを話出した萩原でさえも。
「どういうことだよ、意味がわかんねえぞ、お前ら」
永川が言った。
「どういうことも何もねえよ。言った通り、そのままだ。
おれは・・・・、いや何もねえ」
菊地は言おうとしていた言葉を飲み込んだ。
波のない、荒々しさのまったく感じられない優しい口調だった。
言ったって仕方がない、誰も理解できないだろう。
当の本人の菊地だって、自身がいまいちよくわかっていない感情だった。
ただ心の中にあった思いは、ただ一つ。
お前らのために生きていたい、それだけだった。
萩原がスピリチュアルな話をしたからだろう。
菊地は自然としゃべり出そうとしていた。
「何もねえって・・・・、何か言いかけてただろ」
萩原が言った。
「いや、何でもない・・・・。
それより、どこ行く?」
さっきまでとは違い、いつもの口調の菊地に戻っていた。
「どこ行くって・・・・」
加藤が言った。
どんよりしていた空気を変えたのは良だった。
「おれ、焼肉食いたい、かな」
「じゃあ、肉食うか」
その菊地の返しでみんなの心の中には少しの疑問を残したまま、車の中の空気感はいつも通りに戻った。
萩原は最初、菊地が何を言いたいのかまったくわからなかった。
でも、自分の中にあったある一つの思いはハッキリした気がした。
それは、なぜこの5人は菊地を中心として存在しているのか?
なぜ、菊地はいつもこんなにも優しく感じるのか?
ということに対する答えだった。
簡単だった。
菊地は他の誰よりもおれたちのことを真摯に考えてくれていた。
高校の時に加藤が他校の生徒にからまれた時、誰よりも先に菊地が飛んで行った。運動場でけいこが倒れた時もそうだった。
そんな思い出と同時に、萩原は菊地がさっき何を言いかけていたのかわかった気がした。
萩原は前の助手席に座る菊地の頭をじっと見つめた。
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